昔の生徒さんのお話です。
とにかく彼は、授業直前、あるいは、授業開始直後にやって来る。
平然とした表情でやって来る。
最初はやる気を疑った。しかし、言われたことは完璧にやって来る。
やる気がないわけではない。帰るのも一番早い。授業が終わった瞬間には荷物を持って教室を出ようとしている。
最初は理解に苦しんだ。
だんだんわかってきた。
彼は、究極に時間を無駄にするのが嫌なのだ。1つが終わったら次、それが終わったらその次。頭の中は次のことでいっぱいなのだ。終わったことは終わったことなのだ。
そのうち、愛称として『遅刻大魔王』とあだ名を付けた。ギリギリ間に合う回数と、若干の遅刻だと、遅刻の回数の方が多いと感じていたからだ。クラスの全員が、私の気持ちをわかってくれていたと思う。本人はこの愛称は知らなかった。
高校2年の秋だったと思うが、彼は英語の全国偏差が86を超えた。
彼の授業に対する熱意には疑う余地はない。しかし、ほんの一分二分の遅刻は続いた。
私は、根負けして、これは彼の個性だと考えることにした。
いろいろあって、ある大学に入った。
その後、法科大学院も無事に優秀な成績で卒業し、一発で司法試験に合格。
現在は大阪で弁護士の先生としてご活躍だ。
彼が大学生の時から、数年に一回会う機会がある。
大学生になってすぐ、『遅刻大魔王』のあだ名について初めて話した。
彼は、誰からも聞かされていなかったようで、大声を上げて笑ってくれた。
弁護士の先生になってからも先日お会いしたが、『遅刻大魔王』の話になって、また大笑いした。
あだ名に大魔王が付く人も珍しいが、彼は、いろんな意味で大物だから、大魔王も悪くないと思う。
彼も気に入ってくれている。
何が言いたいかというと、遅刻しないってことは大事なことだが、受験勉強で大事なことは、時間のメリハリだ。
授業が終わって、サッと帰る人、いつまでも教室でダラダラやっている人。
遅刻はもちろん良くないが、ダラダラやっているのは、受験勉強上一番悪い。
時間こそが最も大切なものであり、その時間を無駄にしているからだ。
時間を無駄にするくらいなら、遅刻大魔王のようにギリギリまで時間を大切にする姿勢も、時には学んで良いと思う。
※大学受験英語besでは、遅刻は厳禁です。念のため。